PINFU

毎日書く訓練

万事快調(3)

2024/01/03
 祖母、妹、わたしの三人で大月に行ったことがある。小学校低学年、二つ離れている妹は保育園生だったかもしれない、わたしたちは保育園に通っていた。父方の祖父母はニ人とも山梨県大月の出身で、結婚なのか付き合っていたときに上京したのか、それぞれ上京して東京で出会ったらたまたまニ人とも同郷で仲を深めたのか、いまのところはわからないがそのうち正確なことを書こうと思っている。しかし上京して出会ったらたまたま同郷だったというのは考えにくい。それに祖父が死んだとき戸籍をすこし見たら、住んでいたF市には籍を移しておらず、出生から亡くなるまでずっと大月だったから、やっぱり向こうで出会って二人一緒に上京した。どうして上京したのかはわからない。いずれ正確なことを書く。おそらくそのときには父はまだ生まれていなかった。父の生家と言うんだろうか、生まれた家は木造の平屋だった。
 ここに住んでたんだよ
 父に何度か教えられたがどこだか覚えていない。地形はそのまま残っているが家屋はもちろん取り壊されて新しい家(それもすでに古くなっている)が建てられているので、このへん、と言うことはできるがそれは間違っている。だいたいたしかこのへんです、としか言えない。お金があれば戸籍を取り寄せて、家系図を作るのはめんどくさいけれど、ここにこんな人がいた、ひいおじいちゃんひいおばあちゃんの顔は写真で見たことがあるが名前はわからない、元旦祖父母の家に新年の挨拶に行きおせちを食べると、いろんな人の名前が父と祖母の会話に出てくる。おそらく親戚の話をしているんだろうとはわかるが、どこの誰なのかわからない。暗号のような彼らの名前を、むずかしい名前ではないのに聞いていた。
 こう書きながらすこし導かれているような気がする、バトンを渡されている、相手は誰だかわからない、そもそも勘違いなのかもしれない。しかし、自分のルーツを調べなさい、と言われている。
 学校の先生になるなら古事記から村上春樹まで自分の文学史を語れなきゃいけません
 文系ってどうするの? 国語の先生になるの?
 文系かぁ。学校の先生になるしかねぇぞ。これは国語の先生に言われた。しかしわたしは国語の先生になっていない。文系=将来なれる職業が少ない=理系より下、というイメージはそのうちなくなるのか。このイメージは誤りだ。文系の出だからといって将来国語の先生しかなれる道がないわけでもない。ましてや小説家になりたい連中ばかりが進んでいる道でもない。わたしは生きいそいでいるのか? もしかしたらそうかもしれない。何かに突き動かされている感じがしている。熱量はある。あれもしないと、と、生きいそいでいる。Iさんの小説を注文していたのが届いた。年末のクソ忙しいときに注文してしまった。注文したあとで、やっちゃった、と思ったがキャンセルするわけにもいかなかった。Iさんは注文が来ちゃったもんだからしょうがないから梱包して送ってくれた。それがさっき届いた。タイトルがとても良い。そして冒頭の一文、
 朝起きて僕が始まる。
 これもいい。電車に乗りながらこれをわたしは読んでいた。
 めちゃくちゃいいんですけど。

「あの、あのさ」
 彼女の少し深刻そうな声に姿勢を正してしまう。
「なんでしょうか」
 芝居のような声が出てしまう。
「わたしの住んでるところ、そろそろ更新で引っ越そうかなあとか色々考えまして」
「うん、うん、あ、隣の部屋空いてるよ、この前引っ越した」
「それよりは、んー」
「隣同士で住むとか良くない?」
「じゃあ一緒に住みたいんですけど」
(伊藤佑弥『殺風景風』p.77)

 そろそろ準備して出かけます