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毎日書く訓練

ディオニソスの祭り(9)

2024/02/25
 お坊さんの話をもうすこしする。
 三回忌なのでそんなに長くはない、二十分ぐらいのお経をあげてくれる。そのあいだ、たぶん七十代のお坊さんは直立のまま、お経をあげ続けている。
「おじいさんが、寒空の中、まっすぐ立って、二十分声出しつづけるって、ヤバくないですか?」
 わたしが言った。
「お坊さんだからやりますよ笑」
「いやそうなんですけど、でも生身の七十代のおじいさんがそれやってるのって、冷静に考えたらすごいなって」
 あづきさんとスペースをした。前に、あづきさんが日記について話したいとスペースを開いて、もともとおづきさんとはお話ししたかった、どういう経緯でフォローするようになったのかは忘れてしまったけれど、お話ししたかったのでそのときはじめて話して、きのうが二回目だった。
 三月のイベントに向けていろいろ進めているけれど、なんとなく一緒にやっている人たちと見ている方向が違うような気がして、しんどい。それは違うんじゃない?と思う。でも「違うんじゃない?」って思うのも、今しんどいから、間違って出された結論(意見)のような気もする。
 おとといのSoraBouさんもそうだけど、二人とも「そもそも」から考え始める。あづきさんは今度イベントをするために場所を借りるけれど、ここはほかの誰かの所有物で、そこにお金を払って借りていて、なのに「ここは俺たちの場所」という顔をしている。俺たちの場所ではなく、所有者に金を払って借りている。
 というかそもそもこの土地にはこんな建物建っていなかった。あるときだれかが、
「ここに建てよう」
 と決めてここに建った。じゃあこの土地はその人の物か、というとそうではない。でっかく言えばここは地球の物だ。そういったことを踏まえて自分たちはここを借りてイベントをするのに、その気持ちが希薄すぎるんじゃないか。だってここに来る人たち、なんでここに来ているのか。私は関西に住んでいるからそのイベントは関西でやる。住んでいるから、というか、関西でやるから私も参加できる。でも関西だからわたしは行けない。行こうと思えば行ける。でもなかなか行けない。金もかかる。
 反対にあづきさんは新宿のフヅクエに行ってみたい、と言っていた。行こうと思えば行ける。でもなかなか行けない。金もかかる。でも反対にわたしは東京に住んでいるからきょう行ける。行かないけど、きょう行こうと思えばきょう行ける。その違いがある。
 イベントに参加している人たちも行ける人と行けなかった人の集合体で、イベントには行ける人が参加している。つまりその段階で選別されている。機会が平等にない。そこから考えないとダメなんじゃないか、とたぶんあづきさんは言っていて、SoraBouさんも、以前は演劇のお手伝いをしていたみたいだけど、
「そもそも劇場ってさ、」
 ってところから考え始めないと落ちつかない。どんな話をしていたかは具体的には忘れてしまったけれど、聞きながら考えていたのは、そもそもなんで観客はずっと座ってこっちを見ているのか。整列させられて。
 そっから考えられる、引っかかるのはすごい。
 保坂和志の小説的思考塾で、保坂の『書きあぐねている人のための小説入門』の冒頭に同級生のWくんとMさんの話がでてくる。と言いながら、Wくんの話はどんな話だったのか忘れてしまって、引用しようにも本も見当たらないからとりあえずMさんの話をすると、小学校の教室の中で、
「昔とはなんですか?」
 と先生が生徒に質問をした。生徒は答えを小さい紙に書いて先生に渡し、先生が読み上げる。ほとんどの生徒が「十年前」「百年前」と書いているなかでMさんは、
「お母さんの、お母さんの、お母さんが生まれる前」
 と書いた。教室は爆笑した。
「あるレビューで、保坂はWくんとかMさんとかそういう例をあげているけれど、でも社会的に見ればどっちも落ちこぼれじゃん、みたいなことを書いている人がいて、それ違うよね。
 みんなそういうふうに見るんだよ。そうは言っても二人とも落ちこぼれじゃん、つまりバカじゃん、ってことなんだけど、自分にはこういう表現が出来なかったな、って反省するっていうか、反省まではしなくていいけど笑 俺にはこんな表現できたかな?とか、そういう視点がまったくなくて、だからその人は『書きあぐね~』を最後まで読んだかもしれないけど、読んでないんだよね」
 あづきさんの話を聞いてて、SoraBouさんの話を聞いてて、それをすごく感じて、もちろん二人とも落ちこぼれだってことではなくて、「そもそも」ってところから考える、俺も日記のイベントとかいくつか出たりもしたけれど、あづきさんみたいに「そもそもこの土地ってさ……」なんて考えたことなかった。SoraBouさんみたいに「そもそも劇場ってさ……」って考えたことなかった。
「こんなこと考えてるのは間違ってるんですかね?」
 とあづきさんは言っていたけれど、まったく照準ズレてないし、っていうかそっから考えないとダメだし、そもそも小説ってさ、SoraBouさんがすごいことを言い始めた。
「そもそも小説って同じフォントの大きさで、同じ方向にしか並んでいないって変じゃないですか?」
 やばくない? そんなこと考えたことがなかった。